依頼者の方から、「裁判で勝ったら、弁護士費用(着手金や成功報酬)も相手に払ってもらえるのですか?」という質問を受けることがよくあります。
確かに、依頼者としては、相手方が不誠実で、仕方なく裁判をしているのであるから、弁護士費用も相手に負担してもらいたいと考えるのが通常ですね。相手が悪いのだから、相手に弁護士費用も払ってほしい、筋が通っているように思います。
まず、訴えられた場合は、自分が勝訴しても、相手方の請求が棄却されるだけで、弁護士費用はとることができません。
仮に、相手方から弁護士費用を請求する場合には、こちらから新たに訴訟(相手方の訴訟提起は不当であり、違法行為に該当すると主張することになります。)を提起するしかありません。しかし、不当訴訟と言えるためには、なかなかハードルが高く現実的ではないことが多いでしょう。
次に、自分が原告として、相手方を訴えた場合はどうでしょうか。
弁護士費用を請求できるかどうかは、紛争の原因や裁判を起こした経緯によります。
例えば、相手に、殴られてけがをして、後遺症が残ったから訴えた(不法行為に基づく損害賠償請求)というときには、弁護士費用も損害の一部として請求することができます。
自分が支払った(支払うべき)弁護士費用も、殴られたために支出を余儀なくされたのだから、損害の一部だということなのでしょう。
しかし、相手が、契約書を締結して、お金を貸していたのに、約束の日までに返してくれなかった(債務不履行)から、お金を返せという訴えを提起したときには、原則として弁護士費用は認められません(債務不履行構成の場合、労災の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求など、複雑な事案でなければ、弁護士費用の請求は難しいでしょう)。
では、弁護士費用は、どれくらい請求できるのでしょうか。
自分が、弁護士に支払うべき金額全額請求することはできるのでしょうか。
結論としては、裁判所は、自分が支払った金額ではなく、自分が受けた損害額(弁護士費用を除く)の1割程度が、必要な弁護士費用と判断することが多いようです。
例えば、交通事故で車が壊れて修理費用に30万円かかったにもかかわらず、相手方が修理費用の支払いを拒んだ場合は、裁判所は、損害額(修理費用)の1割の3万円程度を弁護士費用として認めることになるでしょう。
現実として、3万円では、弁護士を交通事故の依頼を受けてもらえないことは、明らかですが、裁判所は、認める弁護士費用は1割程度という基準は崩さないようです(私個人的には、この様な機械的な認定には疑問を感じます)。
もっとも、裁判に至る経緯等で、弁護士費用は認められないこともあります。
例えば、上記の車の修理費用の事件で、相手方が、丁寧に要求に応じてくれるような人で、修理費用は全額負担しますとか述べている等、裁判をするような必要がなかった、弁護士を雇う必要がなかったという事情があるようなときには、弁護士費用は認められません。
ちなみに、判決には、「訴訟費用は、被告(原告)の負担とする。」という言葉が記載されることがあります。
訴訟費用とは、訴訟手続きを進めるために係る費用(裁判をするにあたって納付する手数料、訴状を相手方に送る郵便切手代金、証人等を呼んだときの日当等)、であり、裁判所に納付するもので、弁護士を雇っても雇わなくてもかかる費用です。
実際に、訴訟費用は多額にならないことが多く、相手方からとりたてる手続きに労力がかかることから、取り立てをしないことがほとんどです(費用対効果の問題ですね)。