トイレ介助10~30秒ほど利用者から目を離したときの介護事故について

本日は、トイレ介助について、介護士に注意義務違反が認められたケースについて、お話をさせていただきます

 

1 かんたんな事案の概要

痴呆対応型共同施設において、介護士Aは、入居中の79歳の女性B(要介護3認知症)を入浴させるためにリビングまで移動させたところで、トイレに行くかどうか確認したところ、Bは「行かない。」と答えた。

そこで、Aは、湯温等の確認をするために、Bをリビングの椅子に座らせて「ここで待っていてくださいね」と言ってその場から離れ、浴室で湯温の確認、脱衣所のマットを整えていた。

その間、Bはトイレに行こうとして歩き出し、トイレの入り口付近で転倒し、骨折した(Aのいた場所とBの転倒場所は3メートル離れているだけであり、転倒の原因となるものが床に置いてあるわけではなかった)。その2年後、Bは死亡した。

担当医及びケアマネージャーは、Bについて、転倒骨折の危険性と動作開始時、トイレや風呂への誘導等への見守り等による転倒防止対処の必要性を指摘していた。

また、担当医は、Bについて、直前の記憶の欠落(排尿や食事を終えたことを直後に忘れる)、徘徊など日常生活動作の障害を指摘し、極めて頻繁にトイレの行き来することを特記事項として挙げ転倒骨折に対する見守りの必要性などを指摘していた。

なお、本件施設は、要介護1及び要介護2の認知症患者を対象に、入居者の能力に応じて、自宅と同様に自立した共同生活を営むことができることを目的とした小規模共同住居の形態であり、常時介護を要する者を対象とする施設ではなかった(ただし、Bについては、要介護3であることを前提として契約を更新している)。

 

2 法的問題

 介護士Aに過失(注意義務違反)が認められるかどうかについて、第1審は、Bについて、これまで転倒事故が一度もなかったのに、わずか10数秒から長くても20,30秒前後目を離して、入浴準備することさえも許されないとの高度な注意義務の要求は余りにも過酷であるとして、Aの注意義務違反を認めなかった。

 しかし、大阪高等裁判所は、「職員としては、Bのもとを離れるについて、せめて、Bが本件リビングに着座したまま落ち着いて待機指示を守れるか否か、仮に歩行を開始してもそれが常と変わらぬ歩行態様を維持し、独歩にゆだねても差し支えないか否か等の見通しだけは事前確認すべき注意義務があった」として、Bの注意義務違反を認めました(625万円ほどの損害賠償を認める判決)。

 

3 雑感

今回の事例のように、トイレ介助の際の事故は、多忙ゆえに介護士がほんのわずかな時間だけ目を離した瞬間に生じるということは珍しくないのでしょう。

トイレ介助をする場合員は、常に、利用者を「見守る人」がいることが大切であり、常に見守る人が誰なのかということはっきりさせておくという意識が必要なのではないかと思います。

仮に、他の業務の必要性のためにその場を離れるときには、必ず、他の介護士に声をかけて、利用者を見守る人を替わってもらうということを意識する必要があると思います。

個人的には、(子育てと介護は全く違うかもしれないですが)常に、赤ん坊や幼児の行動に目を向けておくことは困難であり、どうしても、他の家事をしている間、赤ん坊や子どもに目が向いていないことがあります。それからすると、介護士の方々の仕事というのは、本当に大変なものなのだなという気がします。

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