トイレ介助について、声掛けなどしっかりした手順を踏んだにもかかわらず発生した介護事故について

本日は、トイレ介助について、介護士に注意義務違反が認められたケースについて、お話をさせていただきます

 

簡単な事案

悪性関節リウマチで病期分類ステージが4の状態であったAは、自宅において、介護ヘルパーの介助を受けていた。

ある日、介護ヘルパーBは、トイレ介助のために、Aをキャスター付きの椅子にて、トイレまで移動させた。介護ヘルパーBは、Aに「立ちますよ」等と声をかけ、Aが「はい」等と答えると、後方からAの両脇に手を入れて、Aを抱きかかえるようにしながら持ち上げ、又は片方の手をAの脇から他方の脇まで差し入れて抱きしめ、もう片方の手を尻の下に入れてAを持ち上げ、体を支えるようにしながらAに立位を取ってもらった。Bは、便器を跨ぎ、手を放す前に、「大丈夫ですか」等と声をかけると、横の手すりに手又は手から肘をかけての腕部分を乗せて体重を支えていたAから「はい」等と了解する趣旨の返事を受けた。そこで、Bは、「離します」などと声掛けの合図をしてから、Aを後ろから抱きかかえるようにして支えていた両手の力を緩めた。その瞬間、Aは、左側を向いて前のめりに倒れかけたので、Bは急いでAを抱きとめて支えた。その際、Aは右側頭部を壁か手すりにぶつけた。

なお、Bは2年以上、毎月5,6回A宅で介助をしており、本件事故時のトイレ介助も、これまでAのトイレ介助の通常の手順を踏んだものであった。

Aは、後日、本件事故により、身体能力が低下し要介護5になったなどと主張して、A及びAの勤める会社に対して損害賠償請求をした。

 

裁判所の判断

 裁判所は、Bは声掛けをしてAの了解をとってから両手の力を緩めたのであるから、たとえ前のめりによろめいたAを抱きかかえた際にAが頭部を壁か手すりにぶつけたとしても、その介護の仕方に過失があったと認めることはできないと判断した

 (本件事故とAが要介護5になったことの因果関係については判断していない)

 

雑感

本件介護事故については、地方裁判所(第一審)、高等裁判所(控訴審)いずれも介護士の過失を否定しました。

本件では、Aさんが介護職員の声掛けを理解できたこと、これまで同様の事故がなかった事、Bさんがしっかりと手順を守り、声掛けをしていたことから、過失(注意義務違反)が否定されたのではないかと思います。

しかし、介護される人の状況によって、介護者の注意義務の内容が変動することになるので大変な仕事ですね。それぞれの介護者の状態をしっかり把握し、少しでもヒヤリとする事態があったのであれば、その都度、介護の手順を見直していく必要がありますね

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