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今日は、トイレ付添いに関して生じた介護事故について紹介したいと思います
1 簡単な事実関係
多発性脳梗塞で入院した72歳のA子さんは、なんとか独歩は可能で足は上がるが、正常な筋力はない状態であった。
Aさんは、リハビリのために病院に入院した。
担当医は、麻痺がある場合には、患者と看護師に対して自分では歩かないで誰かを呼ぶように指示していた。
看護部長は、Aに対して、転倒の危険性があるので、トイレに行くときには必ずナースコールで看護師を呼ぶように伝えていた。
入院の翌日午前6時ころ、Aは、看護師同行でトイレに行ったが、Aは看護師に対して、「一人で帰れる。大丈夫」と伝えた。
看護師は、その言葉を受け、Aさんとトイレの前で別れ、別の入院患者の介護に向かった。
なお、Aは、この時までに、何度か、一人でトイレに行ったことがあった。
その後、30分後、看護師は、ベッドの横で意識を失い転倒しているAさんを発見した。Aさんは、5日後に、急性硬膜下血腫により亡くなった。
2 法的問題
(1)看護師、病院に賠償責任はあるか
①看護師に不法行為責任、病院を経営する法人に債務不履行責任・不法行為責任・使用者責任が認められるか、②また、Aさんが「一人で帰れる。大丈夫」と言って、 付き添いを断っていることは、どのような影響を及ぼすのかが問題となります。
同種事案における東京高等裁判所の判決は、病院側が看護師による介護・付き添いがあればトイレへの往来に差し支えないと判断したのであるから、看護師には、Aがトイレに行き来する際、必ず、Aに付き添い、転倒を防止すべき義務があったとし、看護師がトイレの前でAと離れたことは注意義務違反(過失)に該当すると判断した。
また、裁判所は、仮に、Aさんの転倒が、一度トイレからベッドに戻った後、再びトイレに行くときのものであったとしても、看護師は、一人でトイレに行こうとするAさんにナースコールを押すように繰り返し指導する必要があったところ、Aさんをトイレから一人で帰ることを容認しており、その容認が、その後Aさんがナースコールをしなかった原因であると考えられるとして、看護師の注意義務違反とAさんの転倒との間に因果関係を認めた。
(2)過失相殺について
裁判所は、転倒の危険性の説明も受け、ナースコールをするように指示を受けていたAさん側の過失も認め、病院側に損害額の2割の限度で損害賠償責任を負うとした。
なお、病院が負担した賠償額は約619万円になる。
3 雑感
看護師としては、Aさんの「一人で帰れる。大丈夫」と言われたこと、翌日からリハビリを予定していたこと、その時の雰囲気などから、自分の判断で介護の程度を緩めたのかもしれません。
しかし、看護師一人の判断で、介護の程度を緩めることは決して許されることではありません。特に、Aさんは入院したばかりで、具体的な状態もよくわからない段階であり、そのAさんが「大丈夫」と言っても、その言葉をそのまま受け入れるべきではなかったのだと思います。
難しい点もあるかと思いますが、しっかりとした確認・引継し、指示内容を徹底して順守するような環境が必要になります
リライト神戸法律事務所では、介護・高齢者問題についても力を入れて取り組んでいます
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